戒めのカレー

ジェンダー/セクシュアリティと教育研究者の のうきよう によるブログ

図書紹介:橋本紀子ら編著『教科書にみる世界の性教育』(かもがわ出版、2018)

 

 

先日発売されたばかりの『教科書にみる世界の性教育』(橋本紀子ら編著、2018、かもがわ出版)を読了。来年度から、早速講義に使おうと思った一冊。

 

 

 

教科書にみる世界の性教育

教科書にみる世界の性教育

 

 

そもそも、性教育って何?という人も多いと思う。

ジェンダーセクシュアリティ研究者と話していても、「生殖教育のこと?」というような話が出てくるし(わたし自身、自分が研究として学ぶ前はそういう風に思っていた)。

本書によれば、性教育・性の学習を保障することは、セクシュアル・ライツ(性の権利) の重要な一部となっているという。そのことは、世界性科学学会(現:性の健康世界学会(WAS))によって1999年に出されている「性の権利宣言」(2014年に改訂版が出された)でうたわれている、すべての人が「包括的性教育を受ける権利」を有することからもうかがえる*1

性教育が「性の権利」として認識されることによって、性教育の内容も、性の生理学的な側面にとどまらず、健康とかかわる科学的知識、関係性や性行動を選択するための価値観やスキル、性の文化的・社会的側面などを含むものとして豊かに広がってきました(p.10)

 

わたしも講義の中ではこれらの考え方にのっとり、『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(2009、ユネスコが中心となって開発。2018年1月に改訂版が出された)で示されている、8つの枠組みをもちいて講義を構成するようにしている(以前は6つの枠組みだったので、6つを意識して構成していた)。

 

そこで〔補:上記『ガイダンス』のこと〕示された包括的性教育の枠組みは、①関係性、②価値・権利・文化・セクシュアリティ、③ジェンダーの理解、④暴力と安全の保持、⑤健康と幸福のためのスキル、⑥人間のからだと発達、⑦セクシュアリティと性の行動、⑧性と生殖の健康となっています。 (同上)

性の権利として、乳幼児期から高齢期にいたるまで生涯にわたって性教育・性の学習が保障されること、また、すべての子どもにその機会が保障されるためには学校の役割がきわめて重要であること、包括的性教育の基盤としてジェンダー平等と多様性の理解が不可欠であることは、国際的には常識となっているのです。(同上)

 

このように、今日国際的には、性教育の射程範囲がとても広いことをおさえた上で、以下、本書の感想。

 

◇読みおわっての感想

1)過去に出た同様の書籍よりパワーアップしている

2011年に発売された『こんなに違う!世界の性教育』(2011、メディアファクトリー社)。これは、自分自身卒論を書く時に相当お世話になった本だったのだけれども、この時よりも内容が充実している。特に、今回の「新版」(?)(出版社も違うので、新版ではないのだけれど、執筆陣にも重なりが見られるので)は、授業の「教科書」としても充分こたえられるものになっていると思う。

こんなに違う!世界の性教育 (メディアファクトリー新書)

こんなに違う!世界の性教育 (メディアファクトリー新書)

 

じぶんなら、特に、冒頭(18頁)にある「諸外国の教科書制度――比較対照表」を使いながら、日本の教育制度(特に「教科書制度」)について考えてみたくなるし、そこから、諸外国との制度の比較を通して、実践をどう組み立てていけるのか考えてみたくなる。「教科書採択の権限」とか、こうも違ってくるものなのか、とか、はっとさせられること満載。

ヨーロッパの多くの国々では、教科書制度は自由で検定制度がありませんし、教員の教育の自由も保証されています。教員は同僚と相談して出版社や民間の団体が発行する教科書や教材を選び、それを用いて自由にのびのびと性教育をおこなうことができます。(p.172)

 

2)「まとめと提言」が良い

単純に「並べてみました」というような内容になっておらず、研究者だけでなく、実践者(と実践者を目指すひと)にとっても、どのような性教育をめざしたらいいのかイメージしやすいような内容になっていた。日本における性教育の可能性と課題というところで、「性の多様性を尊重する学校づくりは必須」(pp.177-178)ともあり、これにどう自分自身研究を通してこたえていくかは考えたいところ。

 

高校生活指導―18歳を市民に〈2016・202号〉性の多様性と学校教育

高校生活指導―18歳を市民に〈2016・202号〉性の多様性と学校教育

 

 

例えば、このかんの「LGBTブーム」のなかでいろいろと組まれた特集のなかで、よくまとまっている一冊(だとわたしは思っている)、『高校生活指導』202号の岩川ありさ論稿「ようこそ、この教室へ : 異性愛主義と性別二元論を超えて (特集 性の多様性と学校教育)」が、その答えの一つの手がかりになると思う。

ci.nii.ac.jp

※ 岩川ありささんが、ご自身のブログでも掲載されています

d.hatena.ne.jp

 

 

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いずれにせよ、この本をもとに学べることはたくさんあると思う。

特に、ジェンダーセクシュアリティ関係、とくにジェンダーセクシュアリティと教育にかかわるすべてのひと(教員はもちろん、研究者、運動関係者もふくめて)に読んでもらいたい一冊である。読むことによって、日本の性教育を考える一つのきっかけになるだろう。